ファイナンシャルタイムズでも読み始めようかなぁ。
2008年9月26日(金)18:00
(フィナンシャル・タイムズ 2008年9月24日初出 翻訳gooニュース)
ジョン・ギャッパー
米経済を動かしているのはゴールドマン・サックスだと、よくそう言われていた。まさにその通りだったことが、今やよく分かった。
米財務長官で、ゴールドマン・サックスの前会長兼CEOでもある、ハンク・ポールソン氏は9月23日朝、最大7000億ドル(約75兆円)の公的資金を使って金融機関が抱える住宅ローン関連の不良資産を買い取るという計画を、連邦議会に報告した。具体的な方法はまだ未定だが、ポールソン長官はできるだけ素早く、できる限り滞りなく、不良資産を買い取りたいとしている。
そしてゴールドマンは同日夕、伝説の投資家ウォーレン・バフェット氏が優先株50億ドル(約5300億円)分を引き受けることになったと発表。さらに50億ドル分はゴールドマンが公募増資で普通株を発行すると明らかにした。同じ投資銀行でも業績悪化に見舞われたり、海外で資金調達を余儀なくされているライバル銀行にしてみれば、頂点にいるのは誰なのか、まざまざと見せ付けられた展開だった。
今回の経済危機には投資銀行がひとかたならぬ役割を演じたというにも関わらず、危機にあたってのポールソン氏の手腕も、ゴールドマンの鮮やか資金調達術も、いかにも典型的だ。ゴールドマンのパートナー(共同経営陣)というのは、並みのウォール街関係者よりも頭がいいだけでなく、あちこちで「公職」に就いているものだ。財務省のトップだったり、中央銀行の首脳だったり。
まず自分自身が金融関係者として金をもうけてから、次に公職についてパワーブローカーになる。ゴールドマン幹部たちは、この二段構えを常に得意としてきた。ウォール・ストリートがきっかけとなった今回のような危機でも、メイン・ストリート(ビジネス界)出身のポール・オニールやジョン・スノウといった前任者に比べると、ゴールドマン出身のポールソン氏が財務省トップだという安心感は確かにある。ポールソン氏の禿頭や立ち居振る舞いはどうも恐ろしげだが、彼はド素人とは程遠いからだ。
けれどもゴールドマンの公の顔と、民間企業としての顔は、潜在的に対立する性質のもので、今回のウォール街の大暴落はその矛盾をむきだしにしている。ポールソン氏は、財務長官としての今の自分はただひたすら「アメリカの納税者」のことだけを気にかけていると強調する。しかしこのほどの財務省と連邦準備理事会(FRB)の介入で、最も得をした中にゴールドマンがいる。私自身は、ポールソン氏は国のためを第一に考えて努力する節度と信条の人物だと思っている。読者の皆さんもそうかもしれない。それでも尚、ゴールドマンが得をしているというこの事実は、やはり気になるのだ。
ゴールドマン出身で財務長官になったロバート・ルービンや、やはりゴールドマン出身でホワイトハウスの国家経済会議議長になったスティーブン・フィールドマンよりも、今のポールソン長官は難しい立場に立たされている。あるいは、ゴールドマン会長からニュージャージー州知事になったジョン・コージンよりも。あるいは元ゴールドマンのパートナーで今やイタリア銀行総裁のマリオ・ドラーギよりも。
信用危機でゴールドマンがもう少し打撃を受けていたなら、ポールソン氏の立場は少しは楽だったかもしれない。しかしゴールドマンはモルガン・スタンレーと共に、最後の巨大投資銀行として生き残りを果たしている。証券取引委員会(SEC)は空売り禁止によって両社をはじめとする金融機関を保護。そしてFRBはゴールドマンとモルガン・スタンレーの銀行持ち株会社移行を認め、両社が本格的な銀行に転身するのを許可したのだ。
目下のところウォール街の評判は散々だが、その当のウォール街でさえゴールドマンを苦々しく思っている。FRBが破綻するに任せたリーマン・ブラザーズの元社員たちは、ポールソン氏とFRBのベン・バーナンキ議長が7000億ドルの安定化策を先週まで出さずにとっておいたことに、不満たらたらだ。ゴールドマンとモルガン・スタンレーが危なそうだという段階になって初めて両氏は、決め手を繰り出してきたのだ。
おまけに、ポールソン氏の7000億ドル基金が連邦議会を通過すれば、ゴールドマンはさらにひともうけするはずで、それが事態をさらにややこしくしている。リーマンやベア・スターンズと違ってゴールドマンは、サブプライム・ローンと不動産に対するリスク(エクスポージャー)を積極的にとことん切り下げていった結果、抱える非流動資産はわずか280億ドル。1兆ドル規模のバランスシートの上で、サブプライム関連の非流動資産はたったの17億ドルに過ぎない。
この17億ドル分の不良資産を昔のボスに買いとってもらって利益を上げたりしたら、それはゴールドマンあんまりじゃないかということになるだろう。しかしそこまであからさまでなくても、手はいろいろある。ポールソン氏の7000億ドル基金が似たような資産を買い取れば、それですなわちゴールドマンの手持ち資産も価値があがるわけだ。加えてゴールドマンはすでにバフェット氏の太っ腹を頼りに、不良資産をもっと買い取ろうか検討しているのだ。
もちろん、ウォール街の危機をほかの銀行よりも上手に乗り切ってきたからといって、ゴールドマンを責めるわけにはいかない。米ローン市場のレバレッジの高いたった1ジャンルに、過剰につぎ込んで自社をリスクにさらすというような無謀な真似を、ゴールドマンはしなかったのだ。信用の混乱に対してヘッジして自社を守り、市場が好転しますようにとただ待つのではなく、損失を素早く切り捨て削減した。
それでもやはりゴールドマンは当局から手助けをしてもらったし、今またさらに助けてもらおうとしている。それに対してリーマンは(正しい判断だったと私も思うが)破綻するままとなったし、ベアスターンズの株主利益はほぼ掻き消された。この2社に続いてゴールドマンも破綻し、パートナーたちの資産がパアになるような、そんな事態を財務省とFRBは許しただろうか。私にはそうは思えない。
1869年にささやかな手形商として創業したゴールドマン・サックスは、政治と金融のエスタブリッシュメント中枢を目指して食い込んでいった。ゴールドマン・サックスにとって良いことは米国経済にとっても良いことだと、政治家や規制当局を見事に説得しおおせたことによって、ゴールドマンは現代のゼネラル・モーターズとなったのだ。
ゴールドマンの重役たちが次々に公職に転身していくのは、ゴールドマンにとって決して悪いことではない。もちろん皆、善意を胸にワシントン入りするのだろうが、ゴールドマン的な世界観をもワシントンに持ち込むことになる。ベアスターンズは破綻させるには、様々な市場との関係が深すぎたという。しかしゴールドマンはそれよりもさらに深く、ウォール街とワシントンに密着しているのだ。
政治と金融機関がこうして絡み合うのは、ほとんどの場合は決して悪いことではない。ゴールドマンのパートナーたちは得てして賢く、勤勉な人たちだ。私自身もゴールドマンと同様、自由市場とグローバリゼーションは良いものだと思うし、裕福な組織や個人というのは社会奉仕や政府改革のためにその影響力と財力を駆使すべきだと考えている。
けれども現時点において、ウォール街は資金流動性と信頼性の危機に直面している。ゴールドマン出身の財務長官という伝統を継承してきたポールソン氏は、来年1月に退任する予定だ。次の大統領は後任を、ゴールドマン以外から選ぶべきだ。
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